債務整理 特許権 民事訴訟

記載
ところ
部分

主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

 原告と被告との間において,原告が別紙特許出願目録記載2の特許を受ける
権利につき2分の1の持分権を有することを確認する。

第2 事案の概要等

 本件は,被告からの借入金債務150万円を被担保債権として被告のため別紙特許出願目録記載2の特許を受ける権利の2分の1の持分権(以下「本件持分権」という。)に譲渡担保権を設定したと主張する原告が,上記借入金債務全額が弁済又は弁済供託により消滅したことを理由に原告が本件持分権を回復し現在これを有するとして,その旨の確認を求めた事案である。
 これに対し,被告は,本件持分権に譲渡担保権を設定したのではなく,特許出願料等を被告が負担するという約束で,これを代金150万円で買い受けたものであると主張している。
1 争いのない事実等(証拠を掲記したもの以外,当事者間に争いがない。)
(1) 原告は,平成14年9月18日,別紙特許出願目録記載1の特許について,特許出願をした。
(2) 原告は,平成14年9月25日,被告から金150万円(以下「本件金員」ともいう。)の振込送金を受けた。
(3) 原告は,平成14年10月2日,上記(1)記載の権利の持分権を被告に譲渡し,その結果,上記特許出願は,原告と被告との共同出願となった。
(4) 被告は,上記特許出願の代理人となったF弁理士から,平成14年9月19日,出願手数料及び先行技術調査に係る報酬として金29万1750円の,同月24日,住所変更手続に係る報酬として金2万6050円の各請求を受け,同年10月25日,これをF弁理士に支払った(乙10の1〜3)。
(5) 原告は,平成15年3月5日,被告との間で,原告が被告から元金400万円を返済期日平成16年2月28日,金利年率2%で借り受ける旨の金銭消費貸借契約を締結し,上記(1)記載の権利の持分権(本件持分権か残余の持分権かは争いがある。)に担保設定した(甲5)。原告は,金銭消費貸借契約に基づき,被告から金400万円の振込送金を受けた。
(6) 原告と被告は,平成15年9月17日,上記(1)記載の権利の特許出願について,国内優先権を主張の上,同権利に係る発明にその後の発明を含めた包括的な発明について,別紙特許出願目録記載2の特許について特許出願をした(以下,同目録記載1,2の権利は特に区別することなく「本件権利」という。)。
したがって,被告は,本件権利の持分権2分の1(本件持分権)に関する出願人である。
(7) 原告は,平成16年1月22日到達の書面をもって,被告に対し,原告から600万円の支払を受けるのと引換えに本件持分権を返還するよう求めたが,被告はこれを拒否した(甲10)。
(8) 原告は,平成16年11月29日到達の書面をもって,被告に対し,上記600万円の弁済受領を催告した(甲15の1・2)。
これに対し,被告は,同金額のうち本件金員(150万円)及び上記(4)の29万1750円の合計179万1750円については同額をもって本件持分権を確定的に取得する対価として支払ったものであるとしてその弁済受領を拒絶し,(5)の貸付金元金400万円及びこれに対する利息・損害金合計23万3555円についてはその弁済を受領する意思を表明した(甲12)。
(9) そこで,原告は,平成16年12月2日,被告が弁済受領を認容した423万3555円を被告指定の銀行預金口座に振り込んで弁済するとともに,同月8日,被告が弁済受領を拒絶した合計191万8393円を供託した(供託書記載の内訳は,本件金員150万円,これに対する平成14年9月25日から平成16年2月28日までの年2%の割合による約定利息金4万2739円及び同月29日から同年12月1日まで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金6万8054円,立替金29万1750円,これに対する平成15年9月17日から平成16年2月28日まで年2%の割合による約定利息金2614円及び同月29日から同年12月1日まで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金1万3236円。甲14)。
2 争点
 本件持分権の譲渡は,原告が被告からの借入金を被担保債権として譲渡担保権を設定したことによるものか。
3 争点に関する当事者の主張
【原告の主張】
 以下の理由により,本件金員が被告の原告に対する貸付金であり,本件持分権の譲渡は,原告が被告のため譲渡担保権を設定したことによるものである。
(1) 権利譲渡に関する承諾書(甲2)について
ア 原告代表者Aは,ウコン葉抽出液の化粧品(以下「本件化粧品」という。)の製品開発を計画したが,これを行うだけの資金がなかったため,訴外有限会社ゼオコム(以下「ゼオコム」という。)代表取締役Cから被告常務取締役Bを紹介され,平成14年9月ころ,原告,被告及びゼオコムの3社が協力して本件化粧品の製造販売の事業化を行うことを合意した。
イ Bは,同年9月14日,Cに対し,原告がどの程度の資金を必要としているのか確認してほしい,もし被告が資金協力する場合には条件として本件化粧品に係る本件持分権を担保とし,本件権利を原告との共有とすることを要求するが,融資金を返済すればいつでも本件持分権を原告に返還すると申し出た。
そこで,原告は,同年9月17日,約1000万円の融資を求めたところ,被告は,本件化粧品の効果が現在のところ原告の主観的評価に止まるので,原告の希望する金額の資金協力は無理であり,協力できても150万円と特許出願に要する費用だけであること,ただし,本件化粧品の効果が客観的評価を得られるようになれば,評価に応じた資金協力を行っていき,最終的には本件持分権の担保により1000万円までの資金協力が可能である旨の回答をした。
ウ そこで,Cは,「権利譲渡に関する承諾書」(甲2)を起案した。原告は,同年9月24日に共有名義に変更する手続は担保として行うものであり,融資資金を返済すればいつでも返還することを被告に再確認の上,これに署名押印した。
そして,同年10月23日,原告,被告(旧商号・株式会社ライフクリエイト)及びゼオコム3社の事業化協力に関する合意を取り交わし(乙11),被告は製品開発と費用の負担を行う旨の契約を締結した。
 Cが「権利譲渡に関する承諾書」について,単なる借用証書ではなく本件権利を被告との共有名義とすることを承諾する文書の形をとったのは,資金だけでなく共に事業協力を行うための担保として共有名義にするという意味合いを持ち,本件金員の150万円に止まらず,被告がこれを手始めに将来的には1000万円までの資金協力を約束していたからである。
エ 「権利譲渡に関する承諾書」には,本件権利を被告との共有名義に変更する条件として,原告が150万円の支払を受けると規定されている。
これは,客観的評価が得られれば被告から1000万円の資金協力を得る予定であったから,150万円は共有名義に変えるための条件にすぎず,今後も本件持分権の担保により更に融資を求めることが予定されていたためである。
オ 被告は,本件持分権を代金150万円で買い受けたものであり,本件金員は本件持分権の買受代金であると主張する。
しかし,売買契約書もなく,本件金員も「代金」とは記載されておらず,他に本件金員が本件持分権の対価であることを示す記載は一切ない。
また,弁済期の定めはないものの,「詳細については,別途打合せとする。」と記載されており,後日,借入金の弁済期,利息などのほか,事業協力の合意書の取り交わしが予定されていた。
(2) 振込口座の送信書と請求書(甲3の1・2)について
 請求書(甲3の2)は,Bの求めに応じてAが発行したものである。
また,同請求書にあえてかっこ書で「(借入金)」と入れることを要求したのはBである。
そして,被告は,ファックス送信書記載の振込先に実際に150万円を入金したのであるから,被告が同送信書(甲3の1)を受領したことは間違いない。
また,ファックス送信書の件名欄には「請求書1葉」と記載され,被告から請求書が添付されていないなどという問合せを受けたこともない。
(3) 借用証書(甲5)について
 原告は,平成15年2月下旬,近畿大学のG教授から本件化粧品の効果についての研究報告がなされたため,被告に対し,本件化粧品の客観的評価に応じて資金を出していくという被告との合意に従い資金の拠出を求め,被告から更に400万円の融資を受けた。
すなわち,同融資は,本件持分権の被担保債権額を増額したにすぎず,新たに原告が有する本件権利の残余の持分権(以下「残余の持分権」という。)について担保権を設定したのではない(上記(1)エ)。
 そもそも特許出願後における特許を受ける権利の譲渡担保は,名義変更が効力要件であるにもかかわらず,被告は原告に対し残余の持分権について名義変更を求めたことはなかった。
(4) 「特許権担保の解除」と題する書面(甲8,乙6)について
 Aは,平成15年9月18日ころ,本件金員を含む借入金を返済すればいつでも本件持分権を返還する旨のBとの約束を文書にするよう被告に求め,その借入金額欄を空欄にした用紙を郵送し,Bが同欄に「600万円」と記入した。原告の再三の要求により,Bが同月29日になってようやくファックス送信してきたのが上記書面(甲8)である。
 被告は,上記書面はAが銀行に見せるだけのものだからと強く要請したからその交付に応じた旨主張するが,事実と異なる。
そもそもこのような文書を見るだけで融資に応じる銀行があるとは思われない。
(5) 同意書(甲16)について
 被告の主張を前提として,上記同意書(甲16)をみると,被告が担保として取得している持分権を原告が株式会社ベリタス(以下「ベリタス」という。)に有償で譲渡しようとしているのに,被告は被担保債権を全く回収しないまま無償で譲渡に同意したことになる。
このことは,会社であり商人である被告としてはあり得ないことである。上記同意書にも上記持分権が担保付きであるとの記載はなく,原告の持分であることを認めた上でベリタスに譲渡することを認めている。
【被告の主張】
 以下のとおり,本件金員は,被告が原告から本件持分権を取得する対価として原告に交付したものである。
すなわち,被告は,原告から本件持分権を買い受けたものである。
(1) 権利譲渡に関する承諾書(甲2)について
ア 被告は,本件金員(150万円)及び特許出願に要する費用を原告に支払うだけでなく,製品開発に必要な資金協力に同意するとともに3社協力して本件化粧品を事業化することを約束した。そして,製品開発・事業化には少なくとも数千万円単位の多額の資金が必要であるところ,被告としては,そのような資金を投入するための自らのリスク管理として本件権利を確定的に共有にしておくことが必要であった。
そうだとすれば,被告が多額の資金を負担する3社での本件化粧品の事業化を合意している中で,原告の主張するように,原告から150万円の返済を受けただけで共有を解消していたのでは,被告としてはリスクが大きすぎて到底その製品化・事業化を進めることができない。
イ 権利譲渡に関する承諾書(甲2)には,本件金員が貸金であることを示す記載や,被告による本件持分権の取得(本件権利の共有化)が貸金の担保であることを示す記載は全くない。同承諾書には,「変更条件として金150万円」との記載があり,これは共有への変更条件の対価が150万円であることを示していると素直に読める。
原告は,同記載をもって,150万円は共有名義に変えるための条件にすぎず,今後も本件持分権の担保により更に融資を求めることが予定されていたためであると主張するが,そのように読むのは不自然である上,もしそうであれば,平成15年3月5日の400万円の借用証書(甲5)の中で,貸金額ないし担保額に本件金員の額150万円を加えて550万円とした記載がなければならないところ,そのような記載は一切ない。
(2) 振込口座の送信書と請求書(甲3の1・2)について
ア 被告は,印影もない単なるファックスを保存しておく扱いをしていないから,甲3号証の1の送信書を受領したかどうか確認できないが,少なくともこれに甲3号証の2の請求書が添付されていたことはなかった。
イ 甲3号証の1・2については,被告の印影がある文書ではなく,本件が問題になった後から原告だけで作成することが可能なものであり,もともと証明力が低い。
また,請求書(甲3の2)については,借主が貸主に対して請求書を出すこと自体極めて不自然であるし,その原本を被告に交付せず現在に至るまで原告が所持しているのも不可解である(原告が被告にその原本を渡す機会はいくらでもあった。)。この事実は,原告が甲3号証の1・2を被告にファックス送信していないことを裏付けるものといえる。
(3) 借用証書(甲5)について
 被告は,平成14年の時点では本件化粧品の事業化がうまく行くかどうか疑問があり,原告に対する直接の金銭給付は150万円が限界であったが,平成15年2月下旬ころ,本件化粧品の効用が近畿大学のG教授により客観的に確認され,年内とは大きく事情が変わった。そこへ一緒に事業を進めている仲間である原告から直接融資の依頼があったため,上記事情を踏まえ,同年3月5日,新たに400万円を原告に貸すこととしたものであって,合理的かつ自然な事態の推移であるといえる。
 なお,原告は,特許を受ける権利の譲渡担保は名義変更が効力要件であるのに被告がその手続を執っていない旨指摘するが,このような法的専門的知識は,特許権を担保に融資を行うという作業によほど慣れていない限り有していないのがむしろ普通であり,被告もそこまでの知識は有していなかった。
また,被告は,前年に既に本件持分権を確定的に取得していたのであり,この上残余の持分権についてまで譲渡担保により名義を被告のものとすることは原告も望まないはずであり,被告としても発明者の一人である原告に本件権利全体の名義を被告にすることまで要求するという発想はなかった。
(4) 「特許権担保の解除」と題する書面(甲8,乙6)について
ア 前記(1)アのとおり,被告が多額の資金を負担する3社での本件化粧品の事業化を合意している中で,原告の主張するように,原告から150万円の返済を受けただけで共有を解消していたのでは,被告としてはリスクが大きすぎて到底その製品化・事業化を進めることができない。
したがって,被告が平成15年9月24日ころ,150万円を返済すれば共有を解消するなどと申し入れたり約束したりすることはあり得ない。
イ 同書面が作成された経緯は次のとおりである。すなわち,Aは,平成15年9月29日,入院先の病院からBに何度か携帯で電話をかけてきて,月末の資金繰りがつかないので何とか協力してほしい,「我が社を潰す気か,資金繰りのため明日銀行が来る,そのとき見せるためだけのものなのだから」と強く要請し,原告の用意した用紙に印鑑を押捺するよう求めた。Bは,入院先から電話をかけてくるくらいだから余程のことだろうと考え,銀行に見せるためだけであればということで,原告の用意した書面に印鑑だけ押捺してファックスしたのが,上記書面(甲8)である。被告の原告に対する貸金は400万円であるのに,同書面には「600万円」と記載されているのは,AがBに対し銀行借入れの関係で600万円と記載してほしいと言ったのでそれに従ったにすぎない。
(5) 同意書(甲16)について
 被告の担保付きであっても,あくまで原告が有している残りの2分の1の持分権をベリタスに譲渡する場面の話であって,ベリタスのD社長は被告の担保付きで原告の持分権を取得したことを自認しているから(乙2),被告がその譲渡に同意することに何の問題もない。すなわち,被告の原告に対する400万円の貸金債権についての担保は付いたままで,原告よりも資金力・信用力等のあるベリタスに原告の持分権が移転するのであるから,被告にとって何の不利益もない。

第3 争点に対する判断

1 前記争いのない事実等に加え,証拠(甲2,5,8,11〔一部〕,乙1ないし3,6,7,9,10の1・2,11,13の1〜3,14の2,24,31の1・2,39,40,原告代表者〔一部〕,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,この認定に反する原告代表者の供述(甲11の陳述書を含む。)は採用しない。
(1) 原告は,神祭具の製造販売を目的とする会社であるが,原告代表者のAは,平成14年4月ころ,よもぎ製品の開発をしていた際,ウコン葉の抽出成分に美白効果があることを知った。そこで,Aは,同年6月半ばころ,ゼオコム代表取締役のCにその製品化及びそのための資金調達等について相談した。
そうしたところ,同年8月20日ころ,Cは,被告常務取締役のBらに相談を持ちかけた。
 なお,Aは,同年8月23日ころ,上記製品化のための資金として,Cから100万円を返済期限同年10月末日の約束で借り受け,同人にその旨の借用証書(乙13の2)を差し入れている。
(2) 原告は,平成14年9月ころ,被告に対し,開発等の資金として約1000万円の融通を求めたが,被告に拒絶された。
上記のとおり,被告としては,原告に資金力がなかったことから,今後3社の共同事業として本件化粧品の開発するとしても,そのために必要とされるべき研究開発費用等はすべて被告が負担することを予定していたため,これとは別に原告に対して融通し得る金額は限定されたものにならざるを得なかった。同年9月18日付けでゼオコムのC作成の同人から被告のB宛に当てた「ウコン液化粧水開発についての資金協力のお願い」と題する書面(乙9,13の3)には,「早速ですが,A社長との資金協力のお願いに関する話合いの結果についてご報告いたします。
A社長の要望については,9月400万円(150万円/25日・250万円/30日),10月500万円(150万円/25日・350万円/30日)が必要で,これを処理できれば当面は会社の運営が維持できるとのことでした。
…そこで,A社長としての考えは,9月・10月の資金繰りを解決するために,A社長が開発されたウコン液化粧水の特許(申請中…本日申請)等を参考に,契約金というような形でお願いできないかという事であります。
もちろん,受け入れていただけるということであれば速やかに共同の手続き等は行うとのことです。」という記載がある。原告は,同日,本件権利について特許出願をした。
(3) 被告は,結局,原告に対する資金融通額を当面150万円及び本件権利に係る特許出願に要する費用に限定し,その後,本件化粧品の客観的評価が得られるようになれば,更に融通する金額を増やすこととし,平成14年9月21日ころ,Cを通じてその旨を原告に伝え,その了承を得た。原告は,同月25日に上記150万円(本件金員)の交付を実行することを求めた。
 被告は,原告,ゼオコムには資金力が全くなかったため,今後の研究開発費用等はすべて被告が負担するという前提で,多額に及ぶ研究開発費用等の回収を担保するためにも,Cの上記(2)の申し出に応じ,本件権利を原告と被告の共有とすることを求め,Cを通じて,原告・被告間でその旨が合意された。
(4) 原告は,平成14年9月24日付けで「権利譲渡に関する承諾書」と題する書面(甲2)を作成した(なお,起案したのはCである。)。
同書面には,「ウコン液使用化粧水」の権利について被告と権利を共有することを承諾し,本件権利について現在は原告のみが権利者であるが,これを原告と被告を共同権利者とするよう速やかに手続を実行する旨,「変更の条件」として150万円とすることが記載されている。
被告は,同日,原告からそのファクシミリ送信を受け,同月25日,原告に金150万円(本件金員)の振込送金をした。
そして,同月26日,A,B,Cのほか,被告代表者(E)が新大阪ワシントンホテルに一同に会し,原告から被告に「権利譲渡に関する承諾書」(甲2)の原本を交付をした。
 なお,被告は,上記特許出願の代理人となったF弁理士から,平成14年9月19日,出願手数料及び先行技術調査に係る報酬として金29万1750円の,同月24日,住所変更手続に係る報酬として金2万6050円の各請求を受け,特許出願に関する費用は被告が負担するとの原告等との約束に従い,同年10月25日,これをF弁理士に支払った。
(5) その後,本件権利の共有権者ではないゼオコム(C)の要請で,原告,被告及びゼオコムの3社による合意書の作成が提案され,平成14年10月23日,3社が一同に会し「ウコン葉抽出液による化粧品に関する合意事項」と題する書面(乙11)に記名捺印した。
 同書面には,上記3社の役割分担として,原告は「研究と開発,ノウハウについては,迅速に製造・販売の体制が確立できるよう全て公開し3社で共有する。その他」とされ,被告は「製品の製造…確実な製品作りのため,状況によっては原料の調達・原液の抽出にも携わる。販売の促進…モニターの実施と効果の収集,製品の販売…確実な販売体制の確立,費用に関する件…製造に関する費用と大学の研究機関に対する費用を負担する。」とされ,ゼオコムは原告と被告「に関係し,3社の信頼関係構築と維持。製造・販売に携わるも主として販売の活動。その他」と記載されている。そして,商品名を「素肌美人」とし,製品の製造委託先を株式会社サコとし,原料の分析を近畿大学農学部のG教授に委託することなどが記載されている。
(6) 原告と被告は,平成14年12月ころ,本件化粧品を化粧品会社の株式会社サコに持ち込み,その研究を要請し,製品見本を試作させたり,近畿大学のG教授らに分析を依頼するなどしていたところ,平成15年1月末ころ,G教授から,本件化粧品について,しみ,そばかすが消えるチロシナーゼの抑制作用が発見されたとの報告があったことから,被告は,商品化に向けてある程度目処が立ってきたと判断し,原告に対し更に資金援助を行うこととし,同年3月5日,被告との間で,原告が被告から元金400万円を返済期日平成16年2月28日,金利年率2%で借り受ける旨の金銭消費貸借契約を締結し,本件権利の本件持分権以外の残余の持分権に担保設定した(甲5)。
原告は,上記金銭消費貸借契約に基づき,被告から金400万円の振込送金を受けた。
(7) 原告は,ゼオコムとともに,そのころ,化粧品等の製造販売等を業とするベリタスにも本件化粧品の製造開発に関する共同事業を持ちかけて交渉を進めていた。
その結果,平成15年7月26日,原告,ゼオコムとベリタスとの間で,契約金額を総額2500万円とし,これを3回分割で支払うこと,ロイヤリティを原告,ゼオコム両者で1本当たり250円とすること,被告は本件権利を元に製造するウコン葉エキスの10年間の独占的製造販売権を有すること等を骨子とする契約を締結した。
その際,ベリタスは,本件権利には担保権も質権も設定されていないことを原告に確認したところ,原告は,上記(6)のとおり,残余の持分権に担保が設定されていたのに,そのような設定はなされていないと虚偽の回答をした。ベリタスは,その後,約定どおりの契約金を原告及びゼオコムに支払った。
(8) 原告は,平成15年9月初めころ,ベリタス(D社長)に対し,被告から400万円の借入れをしており,本件権利に担保を設定しているところ,その返済のため必要であるとして,契約金の前払いを要請してきた。
Dは,Aに対し,本件権利は担保に入っていないと言ったではないかと詰め寄ったところ,担保ははずせば良いと考えていたのでそのことは言わなくてもよいと思ったなどと弁解しながら,謝罪した。
そして,担保をはずさなくてはベリタスから残余の契約金の支払を受けられず,今後の資金調達に悪影響を及ぼす懸念を生じるに至った。
(9) 原告は,平成15年9月19日に心筋梗塞で倒れ,入院した。Aは,ベリタスとの上記関係を秘したまま,Bに対し,銀行から融資を受けるために銀行に見せるために必要であるなどと虚偽の事実を述べ,融資が受けられなければ会社がつぶれるなどと申し向けて,本件持分権を原告に返還する旨の文書を書いてほしいと頼んだ。Bは,入院中のAから必死に懇願されたことから,Aの上記申入れに応じることとし,同年9月29日,「特許権担保の解除」との表題の下に「株式会社ライフクリエイト(被告)は,株式会社八巳路(原告)に貸付した金六百万円也の返済を確認の上,直ちに特許権担保(特願2002−270851皮膚外用剤)を解除する。
尚,利息は返済時に計算するものとする。」と記載した書面(甲8)に被告名で記名押印してこれをファックス送信した。
ただし,被告は,その原本を原告に交付することはなかった。
(10) その後間もなく,Bも,Aの申し向けた上記事実が虚偽であることを知り,Aにこれを難詰したところ,原告から謝罪の手紙(乙7)が届いた。
その手紙には,「この度は,大変不愉快な思いをさせてしまい,申し訳ございませんでした。」との書き出しとともに,友人から同月25日の給料支払と月末にかけての支払分について借り入れの約束をしていたが,自分が19日に倒れてしまったため,後々を心配した友人から融資を断られ,他の融資先をあたっていたところ,同融資先から,不動産担保はともかく,特許出願人が原告単独であれば融資の話に乗ろうということになり,期限が迫っていたことと身体が自由にならないもどかしさからBに無理なことや荒い言葉を投げかけ,不快な思いをさせたことを謝罪する内容となっている。
(11) 被告は,平成15年10月27日,ベリタスのD社長から,本件権利のうちの原告の持分権を原告から取得したいので,共有者である被告の同意を求めたいとの依頼を受け,これを承諾し,その旨の同意書(甲16)を作成した。
(12) 更に,A及びその妻は,平成15年11月12日付け文書(乙14の2)を作成したが,同文書には,「400万円借入のいきさつ(850万円)」との見出しの下に,「私は,担保の件は借用書の記入のときに初めて知った。
出願中の特許を担保の条件にするのは,ウコンの効果を信じていないはずなのに,どんな話になったのかなと,これも大きな疑問になっている。」との記載がある。
2(1) 前記争いのない事実等のとおり,原告は,平成14年9月18日,本件権利について特許出願をしたところ,同月25日,被告から金150万円(本件金員)の振込送金を受け,これに対応して,同年10月2日,本件持分権を被告に譲渡し,その結果,本件権利に係る特許出願は,原告と被告との共同出願となったものである。
そして,本件金員が被告の原告に対する貸金であり,上記譲渡が担保目的で設定されたとの原告主張事実は,原告において主張立証責任を負う事実であると解される。
そこで,上記認定事実に照らし,そのような事実についての立証が尽くされているか否かについて,以下検討する。
(2) まず,前示認定のとおり,原告は,ウコン葉抽出液に美白効果があることを知り,これを含有する本件化粧品の製品化を企図したものの,自らは資金力が全くなかったため,ゼオコムとともに被告にその協力を仰いだものである。
そして,本件金員が,かかる被告の原告に対する資金援助の一環としてなされたものであることは,前示認定の経緯に照らし明らかである。
しかし,本件持分権を被告に取得させた上,原告に資金援助する方法としては,本件持分権を担保に金銭を貸し付けるという方法に限られるものではなく,被告が主張するように,本件持分権を買い受け,その代金を支払うという方法で資金援助をすることも,もちろんあり得ることである。
そのいずれであるかは,本件金員の交付及び本件持分権の譲渡当時の原告・被告双方の意思を証拠に照らして合理的に解釈することになる。
 そこで,検討するに,その際に作成された書面としては,原告作成の「権利譲渡に関する承諾書」(甲2)がある。
同書面には,前示のとおり記載されており,その趣旨は,要するに,@本件権利の権利者を原告1名から原告及び被告の2名に変更する,すなわち,本件持分権を原告が被告に譲渡する旨,Aその変更(譲渡)の条件として,150万円を被告が原告に支払うこと,B詳細については別途打ち合せること,であると解される。上記書面の記載を素直に読めば,本件持分権を原告から被告に譲渡し,その対価(譲渡の条件)として被告から原告に150万円(本件金員)を支払う,すなわち,原告が本件持分権を代金150万円で売り渡す旨が記載されていると解するのが相当である。
他方,本件金員が被告の原告に対する貸金であるとすれば,当然に記載されているべき返済期限,金利等の約定が記載されておらず,また,その担保として本件持分権に譲渡担保を設定するとの趣旨の記載は甲2号証には一切見当たらない。
その後,被告が原告に対する400万円の資金援助が貸金であることは当事者間に争いがないが,その際には,金利,返済期限が明記された「借用証書」(甲5)が作成されていることを考慮すると,このような事項が記載された借用証書が作成されていない本件金員が貸金として交付されたものとは認め難く,かえって,被告の主張するように,本件持分権が代金150万円で被告に譲渡されたことを窺わせる有力な資料であるということができる。
 また,上記承諾書記載の合意に先立ち,ゼオコムのC作成に係るB宛ての「ウコン液化粧水開発についての資金協力のお願い」と題する書面(乙9,13の3)にも,被告に対して貸金による資金協力を求める趣旨の記載がなく,かえって「A社長としての考えは,9月・10月の資金繰りを解決するために,A社長が開発されたウコン液化粧水の特許(申請中…本日申請)等を参考に,契約金というような形でお願いできないかという事であります。もちろん,受け入れていただけるということであれば速やかに共同の手続き等は行うとのことです。」という記載があり,この記載を素直に読めば,本件権利について,契約金として資金協力を求め,契約金が支払われるのであれば,本件持分権を被告に譲渡するとの趣旨に読める。
「契約金」の法的意義は必ずしも明確ではないが,その通常の用語例からして,契約が解消されない限り,返還を要しない性質の金銭であると解される(原告代表者自身も,契約金をそのようなものと解釈していることが窺える。原告代表者17頁参照)。
当時,Cは原告(A)側の人間として行動しており(原告代表者),上記書面(乙9,13の3)の内容は,原告代表者であるAの意を受けたものと推認される。
このような原告・被告間のやり取りを経て,上記「権利譲渡に関する承諾書」が作成されたことにかんがみれば,同書面に表われた原告・被告双方の意思が,本件持分権を代金150万円で被告に譲渡するというものであったことを窺わせるものと解される。
 原告は,本件持分権は本件金員その他原告の被告に対する借入金を返済すれば,いつでも原告に返還するという口頭の合意があったと主張する。
しかし,そのような口頭の合意がなされたという客観的裏付けはなく,上記各書面はむしろそのような口頭の合意がなされたことと矛盾する内容とされている。
また,原告は,「権利譲渡に関する承諾書」中に「詳細については,別途打合せとする。」との記載があることをもって,金利,返済時期等を後日協議することが予定されていたと主張するが,その後,その点に関する協議は全く行われていない(このこと自体は,原告代表者も認める供述をしている。)。
このことは,その後,原告が被告から400万円を受ける際には,これらの事項を当初から明確に定めていることと対比すれば,不自然というほかない。
むしろ,「権利譲渡に関する承諾書」作成後,「ウコン葉抽出液による化粧品に関する合意事項」と題する書面(乙11)が作成され,詳細な事項が定められていることからすれば,「権利譲渡に関する承諾書」に別途打ち合せるべき「詳細」というのは,上記合意書に記載されたような共同事業に関する細目的事項を指すものと解するのが自然である。
したがって,原告の上記各主張は採用できない。
3 原告は,本件金員が被告からの借入金であり,本件持分権を被告に譲渡したのはその担保とすることを目的とするものであって,原告が融資金を返済すればいつでも本件持分権を原告に返還するとの被告との合意があったことを裏付けるものとして,以下の各証拠を挙げるので,その信用性等について検討する。
(1) 甲3の1・2(請求書等)について
ア まず,原告は,Bの求めに応じて表題の「請求書」の次に「(借入金)」との記載を挿入した請求書(甲3の2)を作成し,これを被告にファックス送信したと主張し,原告代表者は,平成14年9月25日本件金員の貸付けを受けることから,その前日の24日,Bから,急ぎ被告として本件金員を支出する根拠となるべき請求書を出してくれと言われたが,その際,被告から原告が本件持分権を買い受けるものではないから,請求書という名目はおかしいので,借入金という形にしてほしいと言われ,上記「(借入金)」「借入金内容詳細について後日話し合い」という文言を入れ,これをファックス送信したものである,イ 甲3号証の2は,「請求書(借入金)」との表題の下に,被告宛てに「一、壱百五拾萬圓也 但し,借入金内容詳細について後日話し合い。」とした原告作成名義の文書である。
そして,原告は,甲3号証の2はファクシミリ送信書(甲3の1)に添付されていたと主張しているところ,同送信書には「件名 請求書一葉」と記載され,原告の振込先銀行預金口座が記載されている。
 被告は,上記ファクシミリ送信書(甲3の1)の総枚数欄の記載が「1枚」から「2枚」に訂正されていること等を指摘し,同書面に請求書(甲3の2)が添付されていたことを否認する。上記訂正の点はさておくとしても,これらの書面の被告への送信記録は証拠提出されておらず,これが真実被告に送信されたかどうかは不明であるといわざるを得ないものであるし,仮に,甲3号証の1が送信されたとしても,それに甲3号証の2の請求書が添付されていたかも証拠上明らかとはいい難い。
 また,そもそも,金銭消費貸借契約に際し,借入れを受ける者が貸付けを行う者に対し「請求書」を交付するというのは異例なことであり,その後に貸金であることが明らかな被告から原告への400万円の交付の際にはそのような請求書は発行されていないことからしても,当時,そのような「請求書」が真実作成されていたというのは相当に疑問である。
ウ また,原告は,上記請求書(甲3の2)の原本を被告に交付していないことを自認しているところ,その理由として,Bから原本を送らなくていい趣旨のことを言われたからだと思う旨供述をしている。
しかし,その供述内容自体曖昧である上,前示認定によれば,Aは,本件金員交付の翌日である平成14年9月26日にBと直接面談しており,その機会に原本を交付することができたのであるから,当時,真実上記請求書(甲3の2)が作成されていたとすれば,原告がその機会に上記請求書の原本を被告に交付していないのは不可解というべきである。
したがって,原告代表者の上記供述はたやすく採用できない。
エ 上記事情にかんがみると,甲3号証の2をもってしても,本件金員が被告の原告に対する貸金であると認めることはできないというべきである。
(2) 甲8号証(特許権担保の解除)について
ア 「特許権担保の解除」と題する書面(甲8)は,被告が平成15年9月29日付けで作成した書面であって,同書面には,「株式会社ライフクリエイト(被告)は,株式会社八巳路(原告)に貸付した金六百万円也の返済を確認の上,直ちに特許権担保(特願2002−270851皮膚外用剤)を解除する。
尚,利息は返済時に計算するものとする。」との記載がある。
そして,原告は,上記書面に関し次のとおり主張する。すなわち,Aは,平成15年9月18日ころ,本件金員を含む借入金を返済すればいつでも本件持分権を返還する旨のBとの約束を文書にするよう被告に求め,その借入金額欄を空欄にした用紙を郵送し,Bが同欄に「600万円」と記入した。原告の再三の要求により,Bが同月29日になってようやくファックス送信してきたのが上記書面(甲8)である,と。
イ しかし,上記認定・説示のとおり,本件持分権は被告が原告から代金150万円で買い受けたものである。
そうすると,上記書面にいう「特許権担保」の対象となっているのは本件持分権ではなく残余の持分権であることが明らかであるから,上記書面をもってしては,原告が残余の持分権に対する担保の解除を受けたとはいえても,本件持分権の返還を受けたということはできない。
ウ なお,前示認定のとおり,原告は,当時,ベリタスとの間において本件化粧品に係る共同事業名下にベリタスから多額の資金援助を受けており,その過程でベリタスから本件権利に設定された担保(残余の持分権に対する担保)を解除するよう強く求められ,これに応じられないとベリタスからの資金援助に悪影響が及びかねない状況であった。
そこで,Aは,Bに対し,銀行の融資を受けるため見せる必要があるからと虚偽の事実を述べて,上記担保を解除したことを証する文書の作成を強く求めていたものである。
そして,当時入院中のAが必死に求めるので,Aの言うことを信じ,「特許権担保の解除」と題する書面を作成したというBの証言は自然であり,原告代表者の供述と対比して信用し得るものというべきである。
エ そうすると,甲8号証をもってしても,本件金員が被告の原告に対する貸金であると認めることはできないというべきである。
4 以上の次第であって,原告が挙げる上記証拠をもってしては,本件金員が被告の原告に対する貸金であり,本件持分権がその貸金を担保するために被告に譲渡されたものであって,原告が本件金員その他の被告からの借入金を返済すれば,本件持分権の返還を受けられるとの原告主張事実を認めるに足りない。
そして,他に,同事実を認めるに足りる証拠はない。
5 よって,そのことを前提に,本件金員を含む被告の原告に対する全ての貸付金を返済し,又は弁済供託したことを理由に,本件持分権が原告に帰属する旨の確認を求める原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

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